解説:バブはある程度小さくなると浮く。
最近引越しました。
4年住んだ家と別れて、新しい家にやってきて1週間、まだインターネットもありません。ガスコンロもねぇ。レーザーディスクは何者だ。
まだダンボール生活から脱却できていませんが、引越しで大変だったのは捨てるか捨てないか微妙なラインの判断。
この作業で一番時間を食った気がします。
具体的に言うと葬式のお礼?なんて言うかど忘れしたけど。塩と一緒にタオルとか入ってるあれのことです。
私、こだわりの強い父母の子でして、こだわりが強いご家庭育ちですので、何事も気に入ったものしか使いたくないってタイプの人でして、こだわりが強いのです。しかし、使わず捨てるのもあれです。キープして数年、亡くなる人は増え続け、タオルは山のように積み重なりました。塩は捨てたけど、集めてたらきっと塩釜焼きぐらいできそうだった。そういえば鯛の塩釜焼きよりぷくぷくたいの方が8倍ぐらい好きですし、安いです。安さは何十倍も安いです。
タオルばかりではありません、いつの葬式ぶんか分からない箱を開けるとバブが入っていました。
前の家はご好意でかなり安くて広い家だったのですが、きれいにされているものの古い家でしたので、風呂もなかなか古めかしい感じの風呂で、私は4年間で一度も浴槽に入ることはありませんでした。さらに温度も規則性がなく、冷たいかと思いきや火傷するぐらいの熱湯が出る。そしてまた一瞬で水が優勢に。無双3の五丈原の戦いの士気ゲージぐらい水とお湯のせめぎ合いが続き、浴槽いっぱいにお湯を貯めようとしたらどのような温度になっているか検討もつきません。
一転して新居、快適な最新鋭の設備(追い炊き)まで完備されていてお湯も安定。なめくじも出ない。そんな時に発見したのがそのバブの箱でした。
「こいつを、ポチャンと入れてやるのはどうだろう。」
私は4年間シャワーで貫き通すことができるように、風呂にそこまでの執着はありません。決して長湯するタイプでもなく、ラーメンでいうとバリカタぐらいの速度で風呂を上がります。ですがこのバブというものに、何とも言えぬただならぬ高揚感を抱いていたのです。
私が使用したのは森の香りとかいう緑になるやつでした。
森の香りってウインナーありましたけど、多分ウインナーの香りではありません。
安定した温度の湯船の中にバブを、大事に育てたメダカを川に返すように両手でそっと入れる。湯船の底に沈むバブ。
泡を吐き出しながら溶けゆくバブをしばらく眺めながらふと昔の思い出を思い出した。
まだ小学生の頃、兄と一緒に風呂に入っている時、
「バブを溶かしながら風呂に入るとぶくぶくしていいんだ」と兄が教えてくれた。
そうなんだと体を洗いながらその様子を見ていた。
しばらくすると突然、寡黙な兄が叫び出した。
「バブが!!おしりに!!!うわああああ!!」
解説:バブはある程度小さくなると浮く。
兄のおしりにくっつきながら泡を吹き出し、バブは消えていった。
そんなエピソードを思い出していた。
しかし、浮上しておしりに当たるということは兄は最初からバブの上にまたがっていたということじゃないかと今になって気づいた。
なぜそんなことをしたのか、寡黙な兄がとった行動に何の意味があったのか。
もしかしたら私を笑わせるためにしてくれたのかもしれない。
未だに兄という人物を詳しく知らない。
そんな兄の結婚式が多分来週に控えている。
詳しい日程も場所さえもよく知らない。だけどそうやって今まできた。
知っているかどうかと信頼は必ずしもイコールじゃないってことだなぁ。
そんなこっぱずかしいことが一瞬だけバブのように浮かんでは消えていった。
森の香りに包まれ、新生活の疲れを癒した昨日のこと。
tennguman