食事、睡眠、TrySail。
2020年1月某日
どうやら中国でヤバイ感染症が流行してるらしい。
さすがに四半世紀以上も生きていれば分かる。よくあることだ。
SARS、BSE所謂狂牛病問題、新型だか鳥だかのインフルエンザ。
どいつもこいつも休みたくて仕方なかった学校を休校させることはなかった。
ボジョレーヌーボーだこいつは。
毎度毎度過去最高にヤバイなんて謳いやがって。
最高にヤバイなんて、最高にヤバイ時にだけ言いやがれ。
2020年11月某日
コンビニに行けばボジョレーヌーボーの予約の案内がしてある。
もうそんな季節なのか。
思い返せば今回のボジョレーヌーボーは確かに過去最強だった。
正確に言えば何が過去最強なのか、実際最強なのか正直全然未だに分かってない。
でも、友人の結婚式は延期の末無くなったし、オリンピックもフジロックもなんにも無かった。
もう生徒ではなくなっちゃったけど、学校も休みになった。
入りそびれて途方に暮れていた水瀬いのりファンクラブも、ツアー中止とともにその後悔も意味を為さなくなった。
何をしてたんだっけ。
停滞したままだった。いろんなことが。
外出の制限がかかり、仕事がなくなる人も多くいた中、私の仕事はより忙しさが増した。
働いて、働いて、休みの日は家に籠もった。
いつぐらいからか忘れたけど、行動が制限される中でいろんなことへの興味や意欲も失っていった。
先日職場の人から「大統領どっちがなると思う?」と聞かれた時、はっとした。
その2択が誰と誰かがわからなかった。
(まぁ多分片方はトランプだ。もう一人は誰だ?ヒラリー…?ジェイデン?そもそも2択というのからブラフか?)
「あー、どっちでしょうね…共和党じゃないっすかね…へへ」
いろんなことに余裕がなくなった。
眠れないほどの激しい頭痛が頻繁に襲うようになってMRIにブチ込まれた。
皮肉なことにMRIの中では謎の大袈裟な機械がエイトビートを刻むのを聴きながら、ゆっくり物事を考えられる余裕ができた。
同じことを繰り返すだけだったな今年は。仕事しかない日々を。
それ以外は本当に生きることだけしかしてないな。
食事、睡眠、TrySail。
TrySail(トライセイル)は、ミュージックレインに所属する声優、麻倉もも・雨宮天・夏川椎菜の3人により構成される日本の声優ユニット。所属レコードレーベルはSACRA MUSIC。2014年に結成され、2015年から活動を開始した。
(Wikipediaより引用)
2020年3月某日
すっかり感染症とやらで閉ざされた世界だが、Spotifyは外出せずとも最新のナンバーを際限なく提供してくれる心強い存在だ。
Spotifyは年末になるとその年自分が一番聴いたアーティストや曲を愉快なアニメーションとともに総括してくれる。
今年はどんなアーティストが一位になるのだろう。
2019年末にリリースされた坂本真綾の「今日だけの音楽」は文句なしの傑作だった。
製作陣は異なっていて、一曲一曲の個性も全く違うのにアルバムの統一感がある。コンセプトアルバムのお手本のような素晴らしい作品だった。アーティスト単位でシャッフルして聞くことが多いけど、このアルバムは必ずアルバム単位で、曲順に聞いてしまう。
暇さえあれば聴いてるThe peggiesの「Hell like Heaven」はすでに何回聞いたか見当もつかない。バンドサウンド全開のアーティストは近年あんまりいない。最近流行りのバンドもみんな着色料の多い曲が多い。たまには塩胡椒のみの野菜炒めでも食おうや。そんな気持ちでペギーズを聞いている人はいるのか。僕以外に。ベースとギターとドラムだけの音楽が恋しい。
そのシンプルさ故に一時期SkyrimをしながらThe peggiesを聞く(ペギる)行為(所謂ペギイリム)を繰り返す日々もあった。Skyrimの世界観とは全く合わないバンドサウンドで仮想と現実とを行き来するそのプレイングは、サウナと水風呂を繰り返すのに似ていた。
このままいけば2020年のSpotify大賞はこの2アーティストのどっちかだ。
しかし最近なんとなく気になっている。
マギアレコードというアニメのOPになっているTrySailの「ごまかし」という曲。
最新シングルは両A面で「ごまかし/うつろい」というタイトルだそうだ。
今どき両A面って何?今の若い人たち「両A面」の意味わかるのかな。
てか僕もよく分かってない。要はW主人公みたいなもんだと思っているけど。
FF8でいうと「ごまかし」がスコールで、「うつろい」がラグナみたいなもんだ。多分そうだ。(本当にそうなのか?)
そして曲名にも惹かれた。「ごまかし/うつろい」なんて声優アイドルの曲名ではない。ビリーバンバンの曲の間違いなのではないか。
ごまかしもうつろいもいいちこのCMに起用されてもおかしくない。
TrySail『ごまかし』-Music Video YouTube EDIT ver.-
曲の内容も胸を打った。
抽象的な歌詞に白とも黒とも言えない雰囲気の不思議なサウンド。
特にサビの”どこで どこで 迷ってるの? もしも”
の後の2連バスドラム(ドドッってやつ)がお気に入りだ。
自分もこうありたいと思った。
元来バスドラはリズムの土台中の土台の役割で、評価の対象とすらなりにくい。
それでも腐らず自分の役割を理解した上で、役割を全うしている。
背伸びをせず自分のできることを最大限に発揮して輝く人に自分もなりたいと思った。
自分の住むこの県にもついに一人目の感染者が現れたぐらいの春の日。
繰り返したことは
食事、睡眠、TrySailだった。
2020年4月某日
感染者はこの町でも増えている。
職場の指示で毎日体温を測っているが、自分の低体温っぷりを改めて知った。
どうやら平熱は35.4ぐらいらしい。相対性理論のやくしまるえつことの差は0.8だ。
終わりの見えない感染と仕事に、余裕は失われていった。今日のごはん考えるので精一杯だった。世界征服どころかいろんなことをやめた。
遠出の外出も、外食も、大きいスーパーに行くのもやめた。
せめて外にへと、ベランダで湯を沸かしてカップヌードルを啜った。
こんなに晴れているのに人が住んでいないみたいだな。と思い、急に誰かに会いたくなった。
そんな気持ちを「ごまかす」ためにTrySailを聴いた。彼女らの歌声は元気が出る。不思議だ。
ついにアルバムにも手を出した。まずは最新のアルバム「TryAgain」を聴いた。
ボジョレーヌーボーみたいだと思った。
2020年5月某日
GWになってもどこにも行くことができなかったが、友達や後輩とZOOMで語り合うなどした。
実際に在宅ワークする人や、飲食業で働く後輩からそれぞれの業界が今おかれている厳しさを聞いた。
自分の実家もサービス業なので、収入が0に近くなっていると聞き、こうして忙しすぎる仕事をしていることはそれなりに幸せなことなのかとも思った。
実家に帰れば地元の同級生どもが結婚しただの、子が生まれただの、そういう情報が、しばらく不在にした新聞受けのようにまとめて入ってくる。それをまとめてそのままゴミ箱へポイするのも一緒だけど。
だったら僕は今年「TrySailを知った」これが僕の近況報告だ。
お母さん、もしそのISDNのママ友ネットワークで僕の近況について発言することがあるなら、そう伝えてくれ。それこそゴミ箱にポイされるだろう話だが。
TrySailの青担当。
クールな歌声で安定感がある。1番の年長者であるが、ベテランの赤ちゃんという肩書きがあるようだ。
さすがの人気声優といったところか、声の通り方が尋常ではなく、歌のうまさもあり、彼女の歌声で三人の歌が引き締まる。ある意味ベーシストである。GRAPEVINEのベースである。
水瀬いのりの曲で言うと「Million Futures」のような歌を歌う。
TrySailのピンク担当。
とにかく無垢な歌を歌う。TrySailを聞いたことがない人は、「あーこの人にアニー歌って欲しい」って思うのが麻倉ももだ。トゥモロートゥモロー。
雨宮がベーシストであるなら麻倉の歌は完全にギターである。花形のようなポジションで、楽曲の可愛さを増幅してくれる。しかし、それだけではなく、歌から真面目さを感じる場面が多々あり、実際のところめちゃくちゃストイックなのではと思っている。
また、福岡出身である。とても良い。確かに福岡顔。
仕事中にサボっているところを見つかって「あー、こがんとこでサボっとってよかとー?」って言われたいセレクション最高金賞受賞です。
TrySailの黄色担当。
主に元気な歌声で、TrySailからもらっている元気の半分ぐらいはフロム夏川と思っていい。しかし、聞き進めていくと元気だけではないことが分かってくる。彼女の強みは曲ごとにスタンスを自在に変えられる起用さだ。曲ごとに必要なエッセンスを自然と担う才能がある。クールな雨宮に、キュートな麻倉の属性が揺るぐことはあまりないので、「あとは何をすればいいか…」と自分で考えて行動できている。パンとハンバーグがあればそれはハンバーガーであるが、玉子をプラスすれば月見バーガーになるし、ベーコンとレタスをプラスすればベーコンレタスバーガーになる。TrySailがただのハンバーガー以上の存在になれるのはこの夏川の存在あってのことだ。
水瀬いのりでいうと「ココロはMerry-Go-Round」のような歌を歌う。
気づけばTrySailは日常になっていた。
「食事、睡眠、TrySail」は完成した。
2020年8月某日
セミが孵化する瞬間を見た。
テレビで見た孵化するセミは暗闇で光るような蛍光色をしていた気がするけど、なんか実際見たら汚かった。でも生命の力はとても強く感じた。
「生きていくことは綺麗なことだけではないぞ」と生意気にもたった今成人式を迎えたばかりのこの虫けらに教わった気がした夏の日。
繰り返しでも生きていこう。
食事、睡眠、TrySail。
2020年10月某日
突然だった。
昼夜問わず激しい頭痛に襲われ、夜には必ず腹痛で目を覚ますようになった。
繰り返す職場と家の往復に病院が経由されることになった。
結果として何の異常もなく、極度の偏頭痛ということで終わった。
パワハラなのかパワハラではないのか知らないけれど、少なからず仕事でのストレスが関与しているのだろう。
会う人会う人に「大丈夫か?」と言われるようになった。
大丈夫かどうかの判断もつかないけど、みんながそう聞いてくると言うことは大丈夫ではないのだろう。でも大丈夫ではないと口にするとそこで崩れてしまいそうで、絶対に口にしなかった。
職場から出て車に乗り込むまで毎日耐え続けた。
”1、満月はスポットライト 1、2、流れ星のムービング 1、2、3、最高のショータイムをさあ始めましょ!”
フーーーーー─!!
TrySail 『WANTED GIRL』-Music Video YouTube EDIT ver.-
それ以上何もいらなかった。
何かを日常にすることへの快感が脳をそうさせた。
GWの同級生たちの近況の話を思い出す。
結婚したり子供作ったり、それって日常に「家族」を取り入れたいんだな。
今年のこの変わらない日常では特にみんなをそうさせたんだろう。
みんながやってるソシャゲなんかも日常に取り入れることで依存度を増す。
僕の場合はそれがたまたまTrySailだっただけで、みんなの日常は少しずつ何かを増やしたり、あるいは少し減らしながら続いていくのだ。
この年齢になってようやくそのことが分かった。それも脳の検査のため入ったMRIの中で気づいた。
変わらない日常というのはなくて、日常は少しずつ増えたり減ったりしていくもののことなんだ。
もう10月。
停滞したこの世の中で食事と睡眠とTrySailだけを繰り返す日々ももう半年以上になる。
今年のSpotify大賞はもう…
11月某日
コンビニに行けばボジョレーヌーボーの予約の案内がしてある。
もうそんな季節なのか。
思い返せば今回のボジョレーヌーボーは確かに過去最強だった。
元気になる曲や優しさでいっぱいの曲、かっこいい曲。見たこともないハンバーガーもたくさんある。
今年を乗り越えられたのもみんなこのTrySailのおかげだと思う。
これからも僕はこの日常を続けていく。
何かを増やしたり減らしたりしながら。
もしかしたら今後減らすのはTrySailかもしれない。
でも、その時代わりに増やすものはきっと50年に一度だったり、100年に一度だったり、そういう大げさな誇張の言葉がくっついた何かに違いない。でもそれでいいと思う。
だから今はこの史上最高のTrySailとの日常を続けていきたいと思う。
食事、睡眠、TrySail
12月某日
ついにこの日が来た。
Spotify大賞だ。
めでたくTrySailのランカーになりました。
tennguman