ゆで卵じいさんと氷水ばあさんと、来ないバス
はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
企画に参加してみよう。今日が締め切りということだけど、記憶に残ってる、あの日?んなもんいっぱいあらぁ!
記憶に残る『あの日』と言われ、いっぱいあらぁの中から最初に浮かんだことこそあの日 of Life。僕はそれについて書こう。
比較のしようがないけど、僕の人生はそれなりにドラマチックだと思う。でも何故か選ばれたあの日of Lifeは、それは意外な「あの日」だった。
幼少の死にかけるような大怪我をした日でも、高校生の時に組んだバンドの友人の家で徹夜でパンクロックを聴きながら人生初の酒を飲み、そのまま文化祭の大舞台で人生初ライブをした日でもなければ、高校の時から一番好きだった憧れのバンドに自分たちの作った曲を評価してもらって、一緒にライブできた日でも無い。当然、あまりの暇さに一日中エレベーターの前で回り続けた幼稚園児のあの日でもないよ。
もっと、ぼんやりとした、白昼夢のような日だった。
奇跡。もしくは、夢のような。
これを読んでいるあなたの一番の奇跡とは何だろう。
そもそもこの世に生まれたことが一番の奇跡だ。ってそりゃそうだ。もう一生分の運を使い果たしたって言ってもいい。生まれた瞬間に一生分の運を使い果たしているってそりゃ望みの無い人生だな。まぁそれでも運のお釣りぐらいは少しぐらい残ってんだろう。小銭ぐらいの運が。
どのぐらいから奇跡と呼ぶのだろう。
僕が今ハマっているスマホゲームの「原神」の最高ランクである星5キャラを引く確率は0.6%だそうだ。これを1回で引くのは相当ラッキーである。でもそれは所詮試行回数次第だ。1回で引けたら奇跡めいている気がするけれど、僕は目当てのキャラのために食事を切り詰め、電気代やガソリン代などを犠牲に何度も試行する。この結果引いた星5キャラなんて奇跡でもなんでもなく必然なのである。
生きてりゃいろんな人と出会い、いろんなものを見て、いろんな話を聞く。
それらの試行回数なんてもう僕がガチャを引く回数なんかとは比べものにならない。
そんな膨大な試行回数をもってしても、「これは奇跡だな」と思えるような「あの日」のことを真っ先に思いついたのだ。
もしかしたら夢だったのかもしれないほどに奇跡の日だった。
それは、半袖の制服が少し肌寒く感じるような秋直前だった。
僕は高校から家まで、さまざまなルートで帰れた。そりゃもう選択肢が多すぎるほど。気分次第でころころと帰路を変えるのが楽しみだった。
その日僕が選んだルートは、「最も時間がかかるけど、歩く距離も短く済むルート」だった。
具体的に言うと、バス停で1時間待つことになるけど、家の近くまで乗せてくれる幻のバスに乗ることにしたのだ。
1時間もあれば家まで歩いて帰れるのだけど、まぁ僕にはiPod touchがあった。つまりこの寒くなりゆく最高の季節を感じながら最新のデバイスで音楽を1時間も聴けるのだ。思うにこの日の僕は、好きなバンドの新譜を入れたばかりだったのではないかと思う。
誰もこんな寂れたバス停でバスなんて待っていない。僕は一人で長椅子に腰掛け、音楽を満喫していた。
数曲聞いたところで、僕の右側からじいさんが歩いてきた。そしてそのままじいさんは僕の右隣へ腰掛けた。
僕は少しボリュームを落とした。少しテンションも下がる。
「……」
「…………」
トントン
音楽で遮るのも限界だった。
じいさんはこちらを見ている。
そして肩をトントンする逆の手には何かが握られている。
ついに僕はイヤホンを外した
「ほら、ゆで卵」
なんだ、じいさんが握っていたのはゆで卵だったのか。
「ゆで卵!?」
それは無垢な高校生だ。気づけばじいさんの手にゆで卵はなく、代わりに僕の手にゆで卵があった。
人生十数年でバス停で見ず知らずのじいさんからゆで卵をもらうことになるとは夢にも思わなかった。
どうするのが礼儀だろうか、食うのがいいのか?遠慮して返す?なんとなくだけど、ありがたく受け取ってカバンに入れるのが正解な気がした。
そんな動揺しきった僕を見てじいさんは気持ちを察してくれた。
「そうだよな、そりゃあ困るよな。」
そうだ。困る。できれば渡す前に気づいて欲しかったがナイス察しだじいさん。
そして、残念そうに僕の手からゆで卵を取り上げた。
バキバキバキバキィ!!!!!!
「殻はいらんよなぁ」
殻を剥いたゆで卵は秋空の下、ツヤツヤと光り輝いていた。
それと同時にカバンに入れるという唯一の逃げ道を無くした。
そしてまぁこれは奇跡でもなんでもないのだけど、当然、ティッシュに包んだ塩もくれた。ゆで卵をバス停で突然渡して、殻も剥いたなら、塩は必須だよね。
左手にゆで卵、右手にティッシュに盛られた塩。食べ盛りのわんぱく小僧か。こちとら文化部だ。
観念した僕は、いよいよ食べることにした。
毒とかなんとかいろんなことを考えたけれど、不思議と諦めがついた。もう毒でもいいや。と思った。
殻を剥いた白身は凸凹の一つもなく、黄身は程よく色が濃く残り、頃合いの良い湯で時間であった。
きっとゆで卵を普段から作り慣れているのだろう。努力の味がした。この塩をつけて…ああ、なんか悔しいけど美味しい。
「美味しいです…」
「…」
ゆで卵くれる大胆な距離の詰め方してきた割に無口だなこのじいさん。
また静寂が訪れる。秋とはそういう季節だ。
ゆで卵を食い終わる頃、今度は左側からばあさんが歩いてきた。
僕の予感は的中し、ばあさんは僕の左に座った。
3人座るのがやっとの長椅子に右からじいさん、僕、ばあさんがピッタリとくっついて座った。
座るや否や、婆さんがこう言った。
「はい、氷水」
ばあさんは水筒から水を注いで僕に差し出した。
ゆで卵を食って喉がカラカラだったんだ。おっ気がきくねぇ。ってそんなわけない。
しかもなんだ、氷水?呼び方「水」でよくない?
まぁ一度死んだ身だ。もう水だろうが氷水だろうが熱湯だろうが飲んでやろうじゃないの。
「っっっっつつつつ!!!!」
あまりの冷たさに僕の体温は一気に奪われた。
確実にこの世のものではない冷たさだった。
それはは氷水だった。
水ではなかった。舐めていた。これは氷水だ。This is cold water.
これは教訓だ。バスを待っている間にみず知らずのばあさんから「氷水」と呼ばれるものを貰ったらそれは紛れもない氷水で、その温度を侮ってはいけない。まさに水知らず。大人になるって難しいぜ。
「あっ、冷たくて美味しかったです...」
「...」
氷水くれる大胆な距離の詰め方してきたのに無口だなこのばあさん。
またしても静寂が訪れた。さっきよりも肌寒い秋。
ここで気になるのはじいさんとばあさんが夫婦、少なくとも知り合いであるかどうかだ。
僕を挟んで互いに全く話す素振りはない。
偶然僕にゆで卵くれるじいさんと、氷水くれるばあさんが現れただけなのか。
「…」
セリフの用意されていないRPGの村人のようにもう誰も喋らない。
じいさんは黙ってゆで卵を食い、ばあさんは黙って氷水を飲んでいた。
僕がさっき体験した夢のような出来事は現実であると突きつけるようだった。
そしてバスが来てドアが開く。
もう1時間経ったのか。
僕ら3人はそれに乗り込み、当然のように3人バラバラの席に座る。
降りる時間はすぐにやって来て、僕はバスを降りた。
あのじいさんとばあさんはどこへ向かうのだろう。
気になったけど、気づけばとっくに陽は落ちていたので僕は急いで家路についた。
なんというか、すっかり秋だった。
tennguman
虫は光に集り、僕は暗闇に吸い寄せられる
「暗いな。」
僕はクラスの友人たちに最近ハマっている曲を聴かせた。
「暗いな。曲もそれを嬉々として聴くお前も。」
2007年、僕は空前の柴田淳ブームの中にいた。
中学生の頃はバンプとTHEイナズマ戦隊ばかりを聴いていた僕が、中学卒業を控えた冬、突然シンガーソングライターに目覚め、聴く曲のテンポはみるみる下がった。
竹仲絵里、奥田美和子、たむらぱんなどを経由した結果、柴田淳に惹かれた。
柴田淳の、そのどうしようもない、底抜けに暗い、世界観に惹かれたのだ。
Syrup16gでもなく、ART-SCHOOLでもなく、他でもない柴田淳の暗さに、僕は完膚なきまでに飲み込まれたのだ。
それまでの僕は特段暗くもなく、明るくもなく、毒にも薬にもならない立ち位置にいた。
思春期のアイデンティティと言ってしまえばそれまでであるが、日によってふわふわと人格が変化した。
そんな僕が、どんどん暗くなった。
今になって「あれは柴田淳の影響だったんだ」と切り捨てることは簡単だが、きっと当時は今では思い出せないほど些細な何かと毎日戦っていて、消耗していたのだと思うし、学校生活や思春期特有の不安感などもあって暗くなったのだと思う。
でも、その暗さの原因に、柴田淳がいたことは、紛れもない事実だった。
暗いといえば、その頃から暗い部屋がたまらなく好きになったのだ。
まずはビレッジヴァンガードの内装。外の光は入り口で阻まれ、中に入れば入るほどディープな景色が広がった。本屋と謳っているが、参考書などある気配もなく、近所の本屋さんでは見たことのない、よくわからんサイズの本がたくさんあった。僕は何度か通ううちにいつの間にか自分の部屋にはブラックライトがあり、意味わからん色で上下する謎のスライムのような泡のようなよくわからんやつと、天井には暗闇で光る星とスマイリーが微笑んでいた。
勉強机の電気も、部屋の電気も全然つけずに僕は暗闇の中の景色を楽しんだ。
暗闇の中で僕はMDウォークマンを取り出し、「柴田淳〜陰〜」と書かれたMDをセットする。柴田淳の中でもとびきり暗い曲が入っている僕のとっておきのMDだ。でもMDのストックがなく、オレンジレンジのファーストを上書きして作ったので、ギラギラに赤くて派手なMDだった。意味わからん色で上下する謎のアレを眺め、楽曲に想いを馳せた。「暗闇の中でこそ見つかる落ち着きが柴田淳なんだよなぁ」なんてことを毎日毎日思っていた。
明るい世界では天井の星々やスマイリーは光らないけれど、僕が灯りを消すと、彼らはぼんやりと現れた。思春期の僕はこの暗闇の中の景色を知れる人になろうと思った。
『世の中には明るい人がたくさんいて、その人たちが気づけない暗闇の中の光を知ったらきっともっと優しい人になれるだろう。』
なんて「生物」と表紙に書いた、「生物ではない何か」のノートに書いた気がする。いててててて。厨二病というかなんというか居た堪れない気もするけど、なんというか、とても共感した。無論、それを書いたのは僕だから当然なのだけど。
今大人になって、「暗い」自分はそのままだ。今でも暗い部屋は大好きだし、一般的部屋の電気消すときのラスト一個のあの赤っぽい電球ぐらいの明るさの部屋で毎日過ごしているし、こんなブログで毎回暗い記事ばかり書いている。あの意味わからん色で上下する謎のアレは、多分捨てた。
大人になって気づいたことはあの頃の僕が思っていたほど世の中には明るい人が多くはないということだった。
きっとみんなあの天井の星の光を知っているんだと思う。それただ話さないだけで。
あの天井の光は自分だけのものだから、誰とも共有しない。このなんでも共有する世の中で、共有しないことはとても贅沢で、ワクワクする。
そいうえば、今日は夏至だ。
暗いのが大好きな僕が最も忌むべき日だ。なんて日が長いんだ。
スターバックスでは「Delight in the Night」というイベントが行われているのをご存知でしょうか。夏至の日には店内の一部の照明を消灯して、キャンドルライト等でいつもと違う雰囲気を楽しめるそうだ。
これは行くしかない。と車を走らせ、スタバに向かう。飛んで陰に入る夏の僕。
たどりついたスタバはカンカンに照明が光っていた。
「あーウチじゃそれやってないんですよーwwもしかしてそれ目的でわざわざ来られたんですか?」
「あ、いや、その、たまたまです...へへ」
腹いせにここで暗いブログでも書いてやろう。
そういうわけだ。
tennguman
「BUMP OF CHICKENのシングルのジャケットの裏面自作」選手権
前回の「食事、睡眠、TrySail。」が少方面のオタク様方に大変ご好評いただいたようで、ありがとうございました。
昨年12月のSpotify大賞の発表(↑参照)からもう随分と経ちます。今年も性懲りもなく音楽を聴いていますが、今年の大賞候補としては突然の復活をとげた古川本舗の配信限定シングルの「知らない」と「yol」が今のとこ有力かなと思っています
春は忙しい。
忙しさの中で別れと出会いが訪れてそれらに感情を動かされる暇すら与えない。おかげさまで部屋の散らかりようは過去ワースト記録を更新している。「こうなったらもっと散らかしてやろう。」郵便受けにねじ込まれたピザ屋のチラシと分譲マンションのチラシといじわるそうな顔の議員のチラシを玄関に放り投げ、あえて散らかっていくさまを眺めては、この忙しさへのせめてもの反抗をした気でいる。
今の家に引っ越して3度目の春が訪れた。この家では気温とかいろいろの事情で、季節によって寝る場所を変えている。春になって、今はCDの棚がある部屋で寝ているのだけど、目を覚ますと目の前に今までに買ったCDが並んである。そういえば、もう僕もCDあんまり買わなくなってしまった。
高校生の時、タワレコのポイント貯めることが生きがいだった。
Amazonとか、だいたい2割引で仕入れてくれる近所のCDショップでは買わずにわざわざ定価販売のタワレコに毎週火曜日に通って、月のお小遣いのほぼ全てを使い果たしていた。僕がタワレコに通った証としてマイルのように貯まるポイントカードを眺めては友人に自慢した。使うなんてとんでもない、カンストさせてタワレコから表彰を受けるんだと息巻いていた。
1万ポイントぐらい貯めたところで、ポイントカードの仕様変更で「有効期限はポイントごとに一年になりました。よってこの1万ポイントは一年後に消滅します。」と無惨にも僕が僕である証が奪われることになった。その1万ポイントは何に使ったんだっけ。覚えてないぐらいだから多分有意義には使えてないのだろう。今はもう通ったタワレコすらない。
先の古川本舗の2曲みたいに、最近は配信限定シングルとしてのリリースが主流だ。良いか悪いかではなく、このサブスク社会ではこのリリース手段が理にかなっているんだろうと思う。出来立ての曲をサクッと全世界へ発表できるのだ。プレス費用もその他諸々もかからない。僕もいちいち注文して、iTunesに入れてアートワーク設定して、同期して、ってしなくても良いから楽っちゃ楽だ。でもきっとこんな自分を昔の自分が見たら「熱意が足りない」と怒るのだろう。
「配信限定シングル」
僕はこの形態のリリースに実のところ慣れていない。
現物がないとかそういうこともあるのだけど、最大の理由は1曲入りというところだ。今までレコードの時代(よく知らんけど)に遡っても1曲入りというのはなかなか珍しいことだったと思う。ぎりぎり知ってる8cmCDですら何曲か入ってた。
虎舞竜の「ロード・ザ・ベスト〜25th anniversary」は全9曲全部「ロード」であるが、そういことではない。
1曲聴いて「はい終わり」と気持ちを整理することに慣れていない。
シングルとはいえ、少なくともあと1曲かけてゆっくりと気持ちを着地させていきたいと思っている。特に単体で勝負しなければならないシングル曲は、必然感情を大きく動かすような強い曲が多いと思うけど、曲が強ければ強いほど、それに比例してカップリング曲(B面曲?)が重要な役割を持つと考えている。配信シングル(1曲入り)だと動かされた感情を処理できずに困惑してしまうことが多い。リピート再生になっていて今聴いた曲がすぐもう一度かかることも多く、「生鮮食品売り場か!」と再生を止めることが多い。
カップリング曲はそんなリード曲の流れを壊さないように、優しく包む曲か、リード曲と全く違う側面からの強い曲で、感情を打ち消し合うような曲かが多い気がするけど、いずれにしろ感情を整理する時間ができ、シングルという作品を、最近の車の後部座席のスライドドアみたいに丁寧にしめることができる。
シングルは団体戦なのだ。
かつてホットドッグプレスに「合コンの鉄板トークは『好きなシングルの構成は?』である」と書いてあったと友達のいとこのお兄ちゃんに聞いたことがある。僕はもちろんそんなの「2曲入り」だ。人によっては「リード曲のインスト入り3曲だ!」という堅物や「インストなしで3曲入りしかない!」という水瀬いのりテンプレートの欲張りさんもいると思います。ですが、研究をしてみると2曲入りシングルには他のシングルにはない驚きの秘密が隠れていることがわかりました。今回はそんな「2曲入りシングル」を科学します。(所さんの目がテンでしか聞かない言い回し)
2曲入りシングルといえば、BUMP OF CHICKEN。
そう連想する人は少なくないかもしれない。僕はそう思う。(実際にはバンプのCDにはシークレットトラック(オマケのような曲)が入っているので、厳密に言うと2曲ではないのだけど)
CDリリースされてるシングルのほとんどが2曲入りで、その中のどのカップリング曲も名曲揃いで、カップリング曲をまとめたアルバムが最高傑作だという人もちらほらいるほどだ。有名どころではシングル「涙のふるさと」のカップリング曲「真っ赤な空を見ただろうか」はある意味表題曲を上回るほどのパワーを持っていて、バンプの名曲を語るうえでは欠かせない曲だ。
ミディアムテンポの優しい雰囲気を持つ「涙のふるさと」と、力強く、疾走感がある「真っ赤な空を見ただろうか」は曲の相性もとても良く、たった2曲とは思えないほどの充実感を感じます。
(シングル「涙のふるさと」CDジャケット)
あーこんなジャケットだったなー。
かっこいいな。
ぺらっ
(裏面)
皆さんはこの裏面を見てどう思うだろう。
特にここを見て
私はシングルの裏面が好きです。
I like Singuru no uramen.
我喜欢単曲CD的背面
나는 싱글의 뒷면이 좋아
たった2曲に対して用意されるスペースの広さ。
そして2曲のタイトルの美しい言葉の関係性。
こう並べられると「涙のふるさと」「真っ赤な空を見ただろうか」
なんて美しい言葉遊びなんだろう。と思わされる。
これはアルバムには真似できない、シングルだけに許された愉悦だ。
古くから日本では五七五という限られた文字数で人々を感動させる俳句の文化がある。シングルにも同じ役割があるといえるのではないだろうか。
まず2つの曲名を眺め、その美しさを目で感じてから、CDをセットしてその中身を味わうのだ。シングルは二度味わえる。
誰しもがBUMP OF CHICKENのようなシングル俳人なりたいのだ。
誰しもが藤原基央になりたい。
「そうだ、次のシングルのタイトルは、「涙のふるさと」にしよう。カップリング曲は、えっと、「真っ赤な空を見ただろうか」というのはどうかな。」
そして出来上がったジャケ裏の写真とレイアウト。こんなものもはや奥の細道である。
きっとその日藤原基央はガッツポーズをして、おいしいご飯でも食べに行っただろう。
不思議だ。
この世界の何を見て何を感じればこんなシングル俳人になれるのだろう。
僕のこのくだらない日常もバンプだったらシングルにできるのかな。
かくして心の藤原基央との共同生活が始まった。(以下全てフィクションです)
Scene1
3月某日
昨日、メモを取れと上司に怒られてしまったので渋々土曜日の一番だらけたい時間を費やして文具屋でみせしめのためだけにCampusノートを買った。買ってみたはいいものの1ページも使う気はしない。なんならメモとるふりして歌詞でも書いてやろうか。
そんなこんなで完成したBUMP CF CHICKEN待望のニューシングル
キャンパス
1.キャンパス 2.土曜日の昼間
”渡しあったこの日々は破れない僕らのキャンパス”
卒業、別れをテーマに、前向きに優しく包み込むミディアムナンバー「キャンパス」と、心落ち着くアコギが印象的なスローバラード「土曜日の昼間」だ。
NHKにて放送中のSONGSでも先日地上波初披露され、コロナ禍の世の中で離れ離れになる人たちの心を繋ぎ止める曲になれればという想いが込められていると語った。
Scene2
3月某日
親戚に不幸があったり仕事の忙しさが爆増したり、なかなか思うようにいかない。しかもコロナで外出すらろくにできないときた。ストレスに潰される寸前であったので、コロナの波の間を上手く狙って久しぶりに県外へ出かけることにした。ふらりと立ち寄ったのは最近完成したばかりというビルの屋上庭園。到着した頃はすでに陽は沈んでいて、所々に設置されたライトが当たる箇所以外は真っ暗で歩くのにも注意が必要だった。庭と呼ぶには少々広めで、その広さが街の喧騒から離れるにちょうどいいものに思えた。暗さも広さも、人工的に計算されて作られたもののはずなのに、かえって自然に思えた。足元に注意しながら次のライトの場所まで進み、照らされた足元を見てみると、やはりそこは街中であることが文字通り明らかにされた。
そんなこんながあり、リリースされるBUMP OF CHICKENのニューシングル
夜空の散歩
1.夜空の散歩 2.ライトアップ
山崎某監督の映画「STAND BY ME とっとこハム太郎」の主題歌「夜空の散歩」は7分半を超える大作だ。後半のラララ─のパートはライブの観客と一緒に歌えそうで、早くアリーナでたくさんの人達と一緒に歌いたいと思える。カップリングの「ライトアップ」はゆっくりとしたイントロから、徐々に激しさを伴って、後半でテンポジェンジしたり、「夜空の散歩」に出てくる歌詞がそのまま登場したり、表情豊かで遊び心に溢れた一曲だ。
Scene3
4月某日
職場にヤモリ。大騒ぎ。「あなたヤモリとか触れんでしょ」とおばちゃんに煽られる。
「触れます。ちょうど触ってる写真もあります。」と、昔友達とガチャガチャでとった爬虫類マグネットフィギュアで写真撮って遊んでた写真を見せて嘘をついた。
かくしてBUMP OF CHICKEN連続シングル3部作の最後のシングルがリリースされた
landscape
1.landscape 2.磁力
「landscape」は最近にしては珍しいタイアップなしのシングルだが、久しぶりにアップテンポでバンドサウンドを前面に起用した曲だ。2番の始まりに一斉にバンドインする構成で、今後リリースされるアルバムでは大幅にイントロがアレンジされて収録される予定。アウトロはAメロに戻ってスンッと終わる。「磁力」は初期に作成されていて、コアなファンの間では有名であるが、今回ついに音源化に至った。
ちなみにシークレットトラックは 「スーパー銭湯の歌」
〜〜〜〜〜〜〜〜
以上が僕の考えた「BUMP OF CHICKENのシングルのジャケットの裏面」です。
めちゃくちゃぽいな。
ちゃんと3つとも「シングルの裏面」じゃなくて「バンプのシングルの裏面」してる。
それでは、今回の優勝者は…
やったーーー!!
おまけ
↑
嘘だよ
1.嘘だよ 2.nothing link 3.またね
tennguman
食事、睡眠、TrySail。
2020年1月某日
どうやら中国でヤバイ感染症が流行してるらしい。
さすがに四半世紀以上も生きていれば分かる。よくあることだ。
SARS、BSE所謂狂牛病問題、新型だか鳥だかのインフルエンザ。
どいつもこいつも休みたくて仕方なかった学校を休校させることはなかった。
ボジョレーヌーボーだこいつは。
毎度毎度過去最高にヤバイなんて謳いやがって。
最高にヤバイなんて、最高にヤバイ時にだけ言いやがれ。
2020年11月某日
コンビニに行けばボジョレーヌーボーの予約の案内がしてある。
もうそんな季節なのか。
思い返せば今回のボジョレーヌーボーは確かに過去最強だった。
正確に言えば何が過去最強なのか、実際最強なのか正直全然未だに分かってない。
でも、友人の結婚式は延期の末無くなったし、オリンピックもフジロックもなんにも無かった。
もう生徒ではなくなっちゃったけど、学校も休みになった。
入りそびれて途方に暮れていた水瀬いのりファンクラブも、ツアー中止とともにその後悔も意味を為さなくなった。
何をしてたんだっけ。
停滞したままだった。いろんなことが。
外出の制限がかかり、仕事がなくなる人も多くいた中、私の仕事はより忙しさが増した。
働いて、働いて、休みの日は家に籠もった。
いつぐらいからか忘れたけど、行動が制限される中でいろんなことへの興味や意欲も失っていった。
先日職場の人から「大統領どっちがなると思う?」と聞かれた時、はっとした。
その2択が誰と誰かがわからなかった。
(まぁ多分片方はトランプだ。もう一人は誰だ?ヒラリー…?ジェイデン?そもそも2択というのからブラフか?)
「あー、どっちでしょうね…共和党じゃないっすかね…へへ」
いろんなことに余裕がなくなった。
眠れないほどの激しい頭痛が頻繁に襲うようになってMRIにブチ込まれた。
皮肉なことにMRIの中では謎の大袈裟な機械がエイトビートを刻むのを聴きながら、ゆっくり物事を考えられる余裕ができた。
同じことを繰り返すだけだったな今年は。仕事しかない日々を。
それ以外は本当に生きることだけしかしてないな。
食事、睡眠、TrySail。
TrySail(トライセイル)は、ミュージックレインに所属する声優、麻倉もも・雨宮天・夏川椎菜の3人により構成される日本の声優ユニット。所属レコードレーベルはSACRA MUSIC。2014年に結成され、2015年から活動を開始した。
(Wikipediaより引用)
2020年3月某日
すっかり感染症とやらで閉ざされた世界だが、Spotifyは外出せずとも最新のナンバーを際限なく提供してくれる心強い存在だ。
Spotifyは年末になるとその年自分が一番聴いたアーティストや曲を愉快なアニメーションとともに総括してくれる。
今年はどんなアーティストが一位になるのだろう。
2019年末にリリースされた坂本真綾の「今日だけの音楽」は文句なしの傑作だった。
製作陣は異なっていて、一曲一曲の個性も全く違うのにアルバムの統一感がある。コンセプトアルバムのお手本のような素晴らしい作品だった。アーティスト単位でシャッフルして聞くことが多いけど、このアルバムは必ずアルバム単位で、曲順に聞いてしまう。
暇さえあれば聴いてるThe peggiesの「Hell like Heaven」はすでに何回聞いたか見当もつかない。バンドサウンド全開のアーティストは近年あんまりいない。最近流行りのバンドもみんな着色料の多い曲が多い。たまには塩胡椒のみの野菜炒めでも食おうや。そんな気持ちでペギーズを聞いている人はいるのか。僕以外に。ベースとギターとドラムだけの音楽が恋しい。
そのシンプルさ故に一時期SkyrimをしながらThe peggiesを聞く(ペギる)行為(所謂ペギイリム)を繰り返す日々もあった。Skyrimの世界観とは全く合わないバンドサウンドで仮想と現実とを行き来するそのプレイングは、サウナと水風呂を繰り返すのに似ていた。
このままいけば2020年のSpotify大賞はこの2アーティストのどっちかだ。
しかし最近なんとなく気になっている。
マギアレコードというアニメのOPになっているTrySailの「ごまかし」という曲。
最新シングルは両A面で「ごまかし/うつろい」というタイトルだそうだ。
今どき両A面って何?今の若い人たち「両A面」の意味わかるのかな。
てか僕もよく分かってない。要はW主人公みたいなもんだと思っているけど。
FF8でいうと「ごまかし」がスコールで、「うつろい」がラグナみたいなもんだ。多分そうだ。(本当にそうなのか?)
そして曲名にも惹かれた。「ごまかし/うつろい」なんて声優アイドルの曲名ではない。ビリーバンバンの曲の間違いなのではないか。
ごまかしもうつろいもいいちこのCMに起用されてもおかしくない。
TrySail『ごまかし』-Music Video YouTube EDIT ver.-
曲の内容も胸を打った。
抽象的な歌詞に白とも黒とも言えない雰囲気の不思議なサウンド。
特にサビの”どこで どこで 迷ってるの? もしも”
の後の2連バスドラム(ドドッってやつ)がお気に入りだ。
自分もこうありたいと思った。
元来バスドラはリズムの土台中の土台の役割で、評価の対象とすらなりにくい。
それでも腐らず自分の役割を理解した上で、役割を全うしている。
背伸びをせず自分のできることを最大限に発揮して輝く人に自分もなりたいと思った。
自分の住むこの県にもついに一人目の感染者が現れたぐらいの春の日。
繰り返したことは
食事、睡眠、TrySailだった。
2020年4月某日
感染者はこの町でも増えている。
職場の指示で毎日体温を測っているが、自分の低体温っぷりを改めて知った。
どうやら平熱は35.4ぐらいらしい。相対性理論のやくしまるえつことの差は0.8だ。
終わりの見えない感染と仕事に、余裕は失われていった。今日のごはん考えるので精一杯だった。世界征服どころかいろんなことをやめた。
遠出の外出も、外食も、大きいスーパーに行くのもやめた。
せめて外にへと、ベランダで湯を沸かしてカップヌードルを啜った。
こんなに晴れているのに人が住んでいないみたいだな。と思い、急に誰かに会いたくなった。
そんな気持ちを「ごまかす」ためにTrySailを聴いた。彼女らの歌声は元気が出る。不思議だ。
ついにアルバムにも手を出した。まずは最新のアルバム「TryAgain」を聴いた。
ボジョレーヌーボーみたいだと思った。
2020年5月某日
GWになってもどこにも行くことができなかったが、友達や後輩とZOOMで語り合うなどした。
実際に在宅ワークする人や、飲食業で働く後輩からそれぞれの業界が今おかれている厳しさを聞いた。
自分の実家もサービス業なので、収入が0に近くなっていると聞き、こうして忙しすぎる仕事をしていることはそれなりに幸せなことなのかとも思った。
実家に帰れば地元の同級生どもが結婚しただの、子が生まれただの、そういう情報が、しばらく不在にした新聞受けのようにまとめて入ってくる。それをまとめてそのままゴミ箱へポイするのも一緒だけど。
だったら僕は今年「TrySailを知った」これが僕の近況報告だ。
お母さん、もしそのISDNのママ友ネットワークで僕の近況について発言することがあるなら、そう伝えてくれ。それこそゴミ箱にポイされるだろう話だが。
TrySailの青担当。
クールな歌声で安定感がある。1番の年長者であるが、ベテランの赤ちゃんという肩書きがあるようだ。
さすがの人気声優といったところか、声の通り方が尋常ではなく、歌のうまさもあり、彼女の歌声で三人の歌が引き締まる。ある意味ベーシストである。GRAPEVINEのベースである。
水瀬いのりの曲で言うと「Million Futures」のような歌を歌う。
TrySailのピンク担当。
とにかく無垢な歌を歌う。TrySailを聞いたことがない人は、「あーこの人にアニー歌って欲しい」って思うのが麻倉ももだ。トゥモロートゥモロー。
雨宮がベーシストであるなら麻倉の歌は完全にギターである。花形のようなポジションで、楽曲の可愛さを増幅してくれる。しかし、それだけではなく、歌から真面目さを感じる場面が多々あり、実際のところめちゃくちゃストイックなのではと思っている。
また、福岡出身である。とても良い。確かに福岡顔。
仕事中にサボっているところを見つかって「あー、こがんとこでサボっとってよかとー?」って言われたいセレクション最高金賞受賞です。
TrySailの黄色担当。
主に元気な歌声で、TrySailからもらっている元気の半分ぐらいはフロム夏川と思っていい。しかし、聞き進めていくと元気だけではないことが分かってくる。彼女の強みは曲ごとにスタンスを自在に変えられる起用さだ。曲ごとに必要なエッセンスを自然と担う才能がある。クールな雨宮に、キュートな麻倉の属性が揺るぐことはあまりないので、「あとは何をすればいいか…」と自分で考えて行動できている。パンとハンバーグがあればそれはハンバーガーであるが、玉子をプラスすれば月見バーガーになるし、ベーコンとレタスをプラスすればベーコンレタスバーガーになる。TrySailがただのハンバーガー以上の存在になれるのはこの夏川の存在あってのことだ。
水瀬いのりでいうと「ココロはMerry-Go-Round」のような歌を歌う。
気づけばTrySailは日常になっていた。
「食事、睡眠、TrySail」は完成した。
2020年8月某日
セミが孵化する瞬間を見た。
テレビで見た孵化するセミは暗闇で光るような蛍光色をしていた気がするけど、なんか実際見たら汚かった。でも生命の力はとても強く感じた。
「生きていくことは綺麗なことだけではないぞ」と生意気にもたった今成人式を迎えたばかりのこの虫けらに教わった気がした夏の日。
繰り返しでも生きていこう。
食事、睡眠、TrySail。
2020年10月某日
突然だった。
昼夜問わず激しい頭痛に襲われ、夜には必ず腹痛で目を覚ますようになった。
繰り返す職場と家の往復に病院が経由されることになった。
結果として何の異常もなく、極度の偏頭痛ということで終わった。
パワハラなのかパワハラではないのか知らないけれど、少なからず仕事でのストレスが関与しているのだろう。
会う人会う人に「大丈夫か?」と言われるようになった。
大丈夫かどうかの判断もつかないけど、みんながそう聞いてくると言うことは大丈夫ではないのだろう。でも大丈夫ではないと口にするとそこで崩れてしまいそうで、絶対に口にしなかった。
職場から出て車に乗り込むまで毎日耐え続けた。
”1、満月はスポットライト 1、2、流れ星のムービング 1、2、3、最高のショータイムをさあ始めましょ!”
フーーーーー─!!
TrySail 『WANTED GIRL』-Music Video YouTube EDIT ver.-
それ以上何もいらなかった。
何かを日常にすることへの快感が脳をそうさせた。
GWの同級生たちの近況の話を思い出す。
結婚したり子供作ったり、それって日常に「家族」を取り入れたいんだな。
今年のこの変わらない日常では特にみんなをそうさせたんだろう。
みんながやってるソシャゲなんかも日常に取り入れることで依存度を増す。
僕の場合はそれがたまたまTrySailだっただけで、みんなの日常は少しずつ何かを増やしたり、あるいは少し減らしながら続いていくのだ。
この年齢になってようやくそのことが分かった。それも脳の検査のため入ったMRIの中で気づいた。
変わらない日常というのはなくて、日常は少しずつ増えたり減ったりしていくもののことなんだ。
もう10月。
停滞したこの世の中で食事と睡眠とTrySailだけを繰り返す日々ももう半年以上になる。
今年のSpotify大賞はもう…
11月某日
コンビニに行けばボジョレーヌーボーの予約の案内がしてある。
もうそんな季節なのか。
思い返せば今回のボジョレーヌーボーは確かに過去最強だった。
元気になる曲や優しさでいっぱいの曲、かっこいい曲。見たこともないハンバーガーもたくさんある。
今年を乗り越えられたのもみんなこのTrySailのおかげだと思う。
これからも僕はこの日常を続けていく。
何かを増やしたり減らしたりしながら。
もしかしたら今後減らすのはTrySailかもしれない。
でも、その時代わりに増やすものはきっと50年に一度だったり、100年に一度だったり、そういう大げさな誇張の言葉がくっついた何かに違いない。でもそれでいいと思う。
だから今はこの史上最高のTrySailとの日常を続けていきたいと思う。
食事、睡眠、TrySail
12月某日
ついにこの日が来た。
Spotify大賞だ。
めでたくTrySailのランカーになりました。
tennguman
脳内水瀬いのりインタビュー 声優だからこそ到達できた音楽ジャンルを超えるニューシングル
水瀬いのりが通算8枚目となるシングル「ココロソマリ」を2月5日にリリースする。
昨年4月に発表された3rdアルバム「Catch the Rainbow!」以来10ヶ月ぶりの新曲となる今作は、表題曲「ココロソマリ」がテレビアニメ「ソマリと森の神様」(1月よりTOKYO MXほかで放送)のエンディングテーマとして起用されている他、音楽ジャンルにとらわれない全3曲が収録されている。
昨年の自身初となる2DAYSの日本武道館公演では2日間で1万8千人を魅了し、アーティストとしての活動にもより一層の注目を集める彼女に、仕事ですり減って心の調和を乱した脳内で話を聞いた。
取材・文 tennguman
家族への愛って身近なようで一番言葉にしないこと
──まず、表題曲「ココロソマリ」は前作「Catch the Rainbow!」以来の2回目の自身での作詞になりますが、ファンへの感謝を歌った「Catch the Rainbow!」とはまた違ったテーマの曲だと思いますが、どのような気持ちで作曲へ臨まれましたか?
やっぱりアニメのテーマが生命や家族愛をテーマにしているので、そのテーマを大事にしながら作詞しました。命がテーマとなると少し重たくなってしまいがちなので、そうならないように、自分の気持ちを中心に表現するようにしました。作中のソマリの気持ちもそうですが、私の家族のことも思い浮かべながら作りました。
──家族愛といえば、私の両親はあまり厳しい親ではなく、私が警察にお世話になって、午前4時に署に身柄引き取りに来てもらった時も「さて、ヤンチャな我が子にコーヒーでもおごってもらうか」というダンディな言葉ひとつだったぐらいの親だったのですが、なぜか扇風機つけっぱなしで寝るとすごい剣幕で「死ぬやろうが!!」と怒鳴られていました。扇風機による体温の低下は死に至ると信じている親でしたので、私はこれには反抗せず、素直に謝るばかりでした。これも今考えると「家族愛」だったんだなと思います。あ、続けてください。
家族愛がテーマになって初めて気づいたのですが、家族への愛って身近なようで一番言葉にしないことなんじゃないかなって思って、そう考えると、命がある間にたくさん気持ちを伝えておくことが大切だなと思えました。「Catch the Rainbow!」もそうですが、普段なかなか伝えることができない気持ちを歌にして伝えることに最近はとてもやりがいを感じます。
──「Catch the Rainbow!」が直接的な表現が多かったのに対して、「ココロソマリ」は文学的な表現が多いのも作詞家としての水瀬いのりの新たな可能性のように感じました。今後も作詞には挑戦していきたいですか?
そうですね。声優としての表現とは違って0から作り出すことになるので、より「自分」が出ると思うんですよね。そんな言葉たちを皆さんの前で伝えることができればと思っています。
──世の中には歌詞コンシャスじゃないリスナーすらも青ざめるほど歌詞が酷すぎる曲もありますからね。
今日も得意技発動 君なんか全然タイプじゃないぜの術
しかもなぜ歌詞推しのPVなの…?
特売!!熊本県産 カリフラワー298円
──暖かく丁寧に歌い上げる「ココロソマリ」から一転、2曲目の「僕らは今」ですが、これまた展開が多く6分半という過去最長尺※の壮大なロックナンバーとなっていますが、やはりライブを意識した楽曲になっているのでしょうか?(※水瀬いのりの楽曲で最長尺は「BLUE COMPASS」の6:34でした)
そうですね。作曲の藤永さんには以前からお世話になっていて、コントレイルとか群青とかアステリズムみたいに(「星屑のコントレイル」「三月と群青」「約束のアステリズム」いずれも過去作の藤永氏作曲のロックナンバー)今回もライブで盛り上がる曲をやりたいですねと話をしていたところ、いただいたデモがこの曲で、即、これだ!と思いましたね。コールアンドレスポンスとかウォウウォウとかッッワァワァ言うとことかいっぱいあるので、会場の一体感というか、また違った感動が生まれると確信しています。今回のツアーで披露するのがとても楽しみです。
──私は今まで散々いろんな音楽を聞いてきたつもりですが、ッッワァワァには驚きました。この曲を初めて聞いたのはスーパーで夕飯を買いながら聞こうと思って再生した時なのですが、約1分のスローテンポが終わって急にロック調に変化したときにあまりの衝撃にカリフラワー売り場の前で6分半ただ立ち尽くすことしかできませんでした。さらにサビ2回し目のブレイクからのッッワァワァを聞いたときには涙が滲み、後半の『believe in me believe in you〜』のところで涙が溢れました。あまりに壮大な展開に私の人生のエンドロールが下から上に流れていくように感じました。まぁこんなところでエンドロールが流れても「特売!!熊本県産 カリフラワー298円」とかが下から上へ流れるだけなんでしょうけど。しょうもない人生なので3秒ぐらいでクレジットが終わります。
はい。
──そしてこの6分半の締め括りは「僕らは今」というタイトル回収の全力のシャウトで幕を閉じます。「ココロソマリ」のタイトル回収の仕方も2番の途中で、さらに楽器が止むというプロのタイトル回収屋がいるなと匂わせるほどの素晴らしさで、心染まりすぎて京都きもの友禅でしたが、「僕らが今」の6分半という長尺を最大限に利用し、最後の最後に回収する技法、シンプルかつ最も効果的。すべての楽曲はこうすべきなのではないかと錯覚に陥るほどのハマり方でした。今の私が国歌独唱するのであれば「苔のむすまで」の後に「君が代はーーー!!!!」とアレンジで入れてしまいそうです。
「僕らが今」の作詞は「TRUST IN ETERNITY」を作詞していただいた岩里祐穂さん岩里祐穂さん!最近の作品だと坂本真綾さんのニューアルバム「今日だけの音楽」の中に収録されている「ディーゼル」の作詞も岩里さんでしたね。福島原発の事故で故郷に帰れない人々に許された1日だけの帰郷という隠されたテーマを持つ、情景が目に浮かぶ、心を揺さぶられる歌詞が印象的でした。にお願いしたんですが、ライブを意識したコンセプトをお伝えしたらこのような形になりました。『数えきれない光がひとつになる 僕らは今』ライブにも当てはまる歌詞で、ますます会場の一体感を強めてくれる気がします。
プロのタイトル回収屋の仕事
輪るピングドラム18話より。
紹介はしたいがネタバレはしたくない。全24話毎回「僕らは今」状態。見て。
こいつをSランクで倒さないとサイトスタイルにはなれない
──最後に、3曲目の「Well Wishing World」ですが、バイバイという歌詞が印象的で別れの歌と思いきや、『また出会えるでしょう』と前向きなところもあるメッセージ性の強い楽曲という印象ですが、これはどういった曲なのでしょう?
この曲はラブソングではあるんですけど、ライブを見にきてくれたお客さんたちに向けたメッセージでもあるんです。別れは寂しいけど、また会えるよと明るい気持ちでバイバイできる曲になっています。ライブでも同じような気持ちになりますよね。
──ライブの最後にこの曲が来ると、次の日からも生きる活力が沸きそうです。この曲の水瀬さんは今までの楽曲にはないまた新たな歌い方に聞こえました。声優という職業の特徴といいますか、歌い方の幅がとても広いですよね。この曲ではラジオで聞く普段の喋りのイメージに近い歌い方だなと感じました。歌詞もなんとなく水瀬さんらしいというか…そのへんも意識していますか?
そうですね、他の2曲と違いを出すために、この曲は明るさや多少のラフさを意識して歌いました。この曲を作ってくださった栁舘周平さんは、以前にも「Ready Steady Go!」のカップリング曲の「Winter Wonder Wander」を作っていただいて、WWWシリーズの2作目になります。
──WWWシリーズの3作目にも期待ですね。
シリーズ2作目のWWWといえば、やはりロックマンエグゼ2のWWW(ワールドスリー)エリアのプラネットマンであろう。
ロックマンエグゼ2といえば、プリズム+フォレストボムの所謂プリズムコンボがゲームバランスを崩壊させていたが、そのコンボに怠けてプレイヤースキルを磨かなかったプレイヤーが詰むボスの筆頭がこのプラネットマンだ。本体の周囲は全て穴が開いており、プリズムもフォレストボムも投げ入れることができないのである。このボスを真面目に倒そうとするプレイヤーは決まって全ボスをSランクで倒すともらえるサイトスタイルの入手が目的であるが、紙飛行機みたいな攻撃がとても被ダメしやすい。Sランクで倒すためにはとにかく被弾回数を0もしくは1程度に抑えなければならない。ダメージの大小は関係なく、紙飛行機攻撃のようにダメージは少なくとも当たりやすい攻撃はSランクへの大きな障害となろう。
──最後に、今年は全国5公演のツアーも決定しています。さらにアーティストデビュー5周年の記念の年にもなりますが、今年はどのような年にしていきたいですか?
今回のツアーでは行ったことのない箇所もあるので、はじめましての方達とお会いするのを楽しみにしています。もうデビュー5周年なのかって正直なところあまり実感は沸きませんね。5周年企画として、まだ詳細は決まっていませんが、何か特別なことができたらいいなと思っています。
──(多分イオンモールツアー※だ…)
※イオンモールツアー
結成20周年を迎えたクラムボンが全国5箇所のイオンモールでライブを行ったツアーである。ベースのmito氏が放った「イオンも立派なライブハウスですね」はイオン史に残る名言として今なお語り継がれている。
ナタリーの人見てたら仕事ください。もしくはカプコンの人。
tennguman
BUMP OF CHICKENの話がしたい私の話
私は去年まで本当に何も無いド田舎に住んでいまして、そんな暮らしを変えようと今は東京の皆さんが想定できるぐらいの田舎(私にとっては大都会)に住んでます。
これは自分で決断してのことだったのですが、いろいろうちのめされた結果その決断が正しかったのか分からなくなり、前住所ではできなかったことをやろうと仕事帰りにケンタッキーのドライブスルーを利用することにしました。
しかし今日は突然の大雨ということもあり、大行列。ガラガラの店内を見つめ、(これは店に入って持ち帰りした方が絶対早いぞ)と思いましたが今日の私は車を降りずにドライブスルーの列に並びました。
なぜなら今日は水曜日。私はBUMP OF CHICKENの新譜「aurora arc」の発売日。降りるわけがありません。買いたての車でのんびりと昔から大好きなバンプの新譜を聴きながら待つこと以上に優先するいい時間の使い道は私は知りませんでした。
aurora arc
シングルや配信曲など、タイアップが盛りだくさんのアルバム。たしかにテレビを普段ほぼ見ない私でもテレビで流れていたのを覚えてる曲もありました。
きっと私ぐらいの年齢の人にとってバンプは特別な存在であって、タイアップしてるということは、これはとてもすごい商品、作品なんだ!!と一目置いて見る人は少なからずいるのではないでしょうか。映画とかもバンプが主題歌ってだけで、興味なさそうなないようでも見ようかな…なんて思ってしまいます。昔近所にあった岩永商店のババアがしきりに「郷ひろみでCM作ってもらいたいわねぇ…」って言ってたのを思い出した。「まずは期限切れのベビースターを売るのをやめてねババア。」お互いの希望は叶わないまま閉店したんだっけ。
spotifyにバンプが登場したと知ったのはその新アルバム「aurora arc」の発売日の朝のことだった。
もちろんaurora arcも発売日当日にはもう配信されていた。地方なものでフラゲもできない私のようなものにはとてもありがたい。ちなみにアマゾンからCDが届いたのは3日後のことだった。
さっそく出勤時から久しぶりのアルバムを楽しんだ。
しかしバンプのアルバムってのは長い。当たり前のように1時間は越す。歴史上の人物なんて信長ぐらいしか知らん生徒が初めて習う日本史で戦国時代に入るまでぐらい長い。
職場に着くまでの間には到底聴き終わりそうにないので、帰りは寄り道しまくって帰ろうと決めた。そして話は冒頭に戻ります。
ドライブスルーを終えた私は遠回りしながら家へ帰っていたのですが、そこに流れてきたのが「話がしたいよ」という曲。出だし2秒で分かる名曲感。もう15年ぐらいバンプ聞いてんだからそれぐらいは分かった。
”どうやったって戻れないのは一緒だよ じゃあこういうことを思っているのも一緒がいい”
私は歌詞をそこまで重要視していないのですが、バンプの得意な感動を誘うサウンドと声に乗ると、歌詞を聞こうと思わなくても勝手に入ってくる。その内容も素晴らしかった。(まぁアルバム曲ではないのだけど)
大人げもなく、車の中でセットのコーラをチューチューしながらわんわん泣きました。
これを藤原さん以外の人が言っていても正直何も感じることはなかったでしょうが、思春期の大半をバンプに教わって生きてきた私の心はあまりにもバンプの前でだけは素直になるのです。
私はこれこそが思い出補正だと思います。
中学生の時、もっとも正直に心を開いた相手が目の前にいる友人ではなく、会ったこともない藤原基央氏であったのかもしれません。(その理論でいくと柴田淳に一番心を開いていたことになりますがその話はやめておきます)
ですので古くからの友人に会うのと同じで、バンプの楽曲を聞くと不思議と心が解放されて、社会で掠れ切った心も純粋な少年のような気持ちに戻るわけです。
こんなアルバムが無料(spotify一般会員等)で発売日に聴けるのってほんとどうかしちゃってると思います。
『まじでこの世の全ての音楽好きに教えてあげたいんだがspotifyには全ての人間を虜にするバンプのアルバムがある』
りょうくんグルメ構文が自然と出てきてしまう。
アルバム最後の曲を聞き終えると同時に家に着くように家の周りをぐるぐる無駄に回って家に着いたころ、職場の人から連絡があった。どうやら来週同じぐらいの年齢の職員だけで飲み会をするそうだ。
正直まだ出会ったばかりだし、フロア違いで仕事中に会うこともそんなにないし、仕事の内容が私と私以外ではまったく違うので、完全に話す内容がないのである。趣味も出身も知らない人ばかりだ...困った。ネット上ではこれだけ饒舌に語っているが、あまり知らない人との会話は本当に苦手だ。
仕事の話はしたくないし、仕事内容違うし、、
「そろそろ参議院選挙ですねー」→硬い。
「水瀬いのりのInnocent flowerのイントロのトレモロの音が最高ですよね、あれだけでほどよい緊張感のような雰囲気が伝わってきてこの曲がアルバムにおける大事な役割を担っていることが伝わりますよね」→二度と誘われない。
「バンプのaurora arc聴きましたか?」
→
先述のとおり、spotifyなどの登場で地方格差なく、所得格差なく、音楽を本当に平等にみんなが楽しめる環境になっている。アルバム買うのはちょっと...どころかレンタルするほどではない...の人でもこれだけ気軽に聴けるのなら聞くでしょ。だってバンプだし。同世代だし。そしてタダで聴けるし。
「昨日のしゃべくり見た〜〜?」ぐらいのノリでいける!!ありがとバンプ!!
待った、念には念を入れてサカナクションの新譜も聴き込もう。
サカナクションとバンプ。よし、勝った。興味なくても教養。絶対聞く。モスのイントロのダサさで1時間以上いける!
当日
どうやらみんなは知ってるけど、自分は初対面という人までいるみたいだ。やばい終わった。強く望むことが乗車権になるのなら、うまく話ができますようにという想いが私の乗車権になる。おいこの飲み会に知らない奴呼んでんじゃねぇ。
序盤はありきたりな会話でなんとか繋いでいたが、ついにあの話題を出す時が来た。
「バンプ聴きますか?」
「ああ、聴きますよー!天体観測とか!!」
「天体....こないだ出たやつは...aurora arc...聴きました...か?」
「なんすかそれ」
「新譜だけど、spotifyとかで聴けますよ...?」
「なんすかスポティファイて^^;」
認識の差を思い知った。誰も悪くないんだけどね。
まぁたしかに逆に菅田将暉が出てる回のしゃべくりぐらい見ろよ!!とか言われても知らんしってなるよね。
ふと見たアマゾンのレビューを思い出した。
話がしたいよ / シリウス / Spica (初回限定盤)(CD+DVD)
- アーティスト: BUMP OF CHICKEN
- 出版社/メーカー: トイズファクトリー
- 発売日: 2018/11/14
- メディア: CD
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こんなブログ見てるぐらいですから皆様はおそらくわかるかと思いますが、バンプのCDには初期からこのようにしてシークレットトラックが入っているのが醍醐味になっています。Spotifyでは聞けません。もうこんなの右足を出して左足を出すと歩ける!ぐらいの常識かと思っていましたが、たしかに何も知らない人にとってはそう感じでもおかしくない。
この方はネタでやってるわけでもなく、他のレビュワーから説明を受けて意図を汲み取って評価などをあとで訂正したらしいですが、常識ってやっぱ人それぞれなんだなとあたりまえのことを再認識しました。なんか道徳の授業の感想文みたい。
結局バンプの新譜もサカナクションの新譜の話もできないまま会は終了してしまいました。体調不良もあり話もうまくできませんでした。
会場をあとにして、二次会の流れになりましたが、帰ることにしました。お酒も飲んでいなかったので二次会組を次の店まで運んでやるよと乗せてあげたのですが、その時助手席に乗せたのが例の初対面の人だったのです。
初めての会話もその時でした。
「車かっこいいっすね!」「こないだ買ったんですよ、いいでしょへへ....」
....
あ、じゃ、出しますね...
エンジンをかけると、bluetooth から勝手に音楽が流れる。
あ、やばい。
流れたのはさっきまで聞いてたけど今は思い出したくもないバンプの「話がしたいよ」
話がしたいのはこっちだよ藤くん。
初対面の人がテンションをあげた。
「あ!これバンプの新しいやつじゃないですか!これめっちゃいいっすよね!!」
「おっ!!バンプの話します?」
…
きっとこれからこのアルバムを聞くときはこの日のことを思い出すと思います。
このようにしてaurora arcに一つ目の思い出補正がかかりました。
バンプの話がしたいだけの私が他人同士だった友人と分かり合えた昨日のことです。
tennguman